世界各地の火山地帯にある酸性の温泉には、青緑色に見える小さな生き物がいます。
それが「イデユコゴメ(出湯小米)綱」というグループの微細藻類です(以下、「イデユコゴメ」と表記します)。

草津温泉の湯畑の様子
国立遺伝学研究所 共生細胞進化研究室
宮城島進也 教授

草津温泉にも広く生息するイデユコゴメですが、こうしたイデユコゴメが、今、生命進化の解明やサステナブルな未来をひらく重要な存在として注目されています。

国立遺伝学研究所の宮城島進也先生に、イデユコゴメの起源、過酷な環境に生きる仕組みや、私たちの暮らしに役立つ可能性についてお話をうかがいました。


イデユコゴメは、高温(35〜58℃)、強い酸性(pH0.05〜3)という、とても厳しい環境で生きる微細な藻類です。さらに、塩分が高い環境や、二酸化炭素(CO₂)が多い環境にも耐えることができます。

イデユコゴメ類の顕微鏡写真

イデユコゴメの起源はとても古いと考えられています。今から約14億年前、光合成をする細菌(シアノバクテリア)が別の細胞の中に取り込まれ、「葉緑体」という光合成のしくみが生まれました。

その後、さまざまな藻類や植物が進化していきましたが、イデユコゴメはそのごく初期(約13億年前)に出現したグループだと考えられています。

また、遺伝子の数がとても少ないのも特徴です。たとえば、イネは3万7千個の遺伝子を持っていますが、イデユコゴメは約5,000〜7,000個しかありません。そのため、「シンプルな細胞でどのように光合成をして生きているのか?」を調べる研究で注目されています。

したがって、イデユコゴメは、生命の進化のしくみや極限環境での生き方を調べるための重要なモデル生物です。さらに最近では、以下のように産業利用の面でも期待されています。

草津温泉における採集活動と環境調査

イデユコゴメには、体に良い成分がたくさん含まれています。

例えば、タンパク質、ビタミンC・E(抗酸化作用)、GABA(リラックス作用)、エルゴチオネイン(老化防止などが期待される希少な物質)などが、他の微細藻類よりも高濃度に含まれていることが、国立遺伝学研究所の研究で明らかになりました。

そのため、化粧品、食品や飼料への利用が期待されています。

また、とても高い密度まで増えるため、効率よく生産できるのも強みです。


イデユコゴメがビタミンC、ビタミンE、カロテノイド、エルゴチオネインなどの抗酸化物質を多く含んでいる理由は正確にはわかっていませんが、イデユコゴメが高温・強酸性環境、さらには、ひなたの浅いところに生息していることから、昼間にはさらに強い光にさらされます。

その結果、「活性酸素」という有害物質が細胞内で発生します。これを速やかに消去し、ダメージを防ぐために、これらの物質を高濃度に蓄積しているのではないかと考えられています。

過酷な環境で生きるために自らを守る仕組みが、結果として人間にとって栄養価の高い藻類を生み出していると考えられます。


イデユコゴメは、バイオテクノロジーの多方面で活躍が期待されています。国立遺伝学研究所により、イデユコゴメにおいてゲノム編集などの遺伝子改変技術が開発され、これにより実際に有用物質の含有量を増加させることにも成功しています。

さらに、特定の遺伝子を導入して、ワクチンなどをイデユコゴメに生産させることも可能です。また、細胞壁を無くしたイデユコゴメは、酸性では安定して生育しますが、中性やアルカリ環境で破裂する性質を利用して、胃酸に耐えながら腸管でワクチンや薬剤を放出する、未来のドラッグデリバリーシステムの開発も進んでいます。

また、イデユコゴメは石油から生産される製品素材の代替原料(バイオプラスチックなど)としても期待できます。屋外での高密度培養技術や、淡水の代わりに海水を利用した培養技術も国立遺伝学研究所によって開発されつつあり、広大な土地や大量の淡水を必要とせずに生産できることも大きな利点です。

研究室における分析

イデユコゴメの魅力は、生命の進化や極限環境で生きる仕組みの解明といった基礎研究だけでなく、新たな技術開発による産業創出という点にあります。

イデユコゴメに限らず、自由研究で藻類やその他の微生物について調べてみるのも良いでしょう。世界には、まだまだ未知の微生物がたくさん存在し、私たちの暮らしや地球環境に大きな影響を与えています。

科学の世界では、新しい発見が未来の技術や産業の種になります。イデユコゴメが持つ極限環境への適応力や栄養価の高さは、持続可能な社会を実現するためのヒントを与えてくれます。ぜひ、身近な自然や科学ニュースに目を向けて、自分なりの疑問や興味を持ち続けてください。